耕作放棄地は「想い」だけでは動かない【1】──白地・青地・地域計画という、最初に立ちはだかる現実

🧠 リサーチと気づき

耕作放棄地は、地域にとって「負の遺産」なのか?それとも、使い方次第で「未来の資源」になり得るのか?

前回の記事では、三豊市を例に、耕作放棄地が秘める可能性について考えた。コミュニティガーデン、エネルギー、地域イベントスペース──使い方次第で、土地は新しい価値を生み出せると書いた。そして最後に、全国の活用事例を調べていく、というところで話を区切った。

実際、その方向で情報収集を始めた。しかし同時に、現場を歩き、不動産会社や行政の話を聞く中で、一つ、はっきりしてきたことがある。

それは、土地活用は「何に使うか」を考える前に、すでに多くのことが静かに決まっているという現実だった。

制度、区分、計画、インフラ。それらは表に出にくいが、土地の可能性を構造として静かに縛っている。

本記事では、耕作放棄地や農地を活用しようとしたとき、最初に立ちはだかる「制度上の制約」を整理したい。白地・青地、地域計画、都市計画法──なぜ「やりたいこと」だけでは話が進まないのかを、図を使いながら現場の視点から見ていきたい。

この記事は「耕作放棄地の現実を見つめる」全3回連載の第1回。

土地活用は、用途より先に「構造」で決まっている

耕作放棄地を前にしたとき、多くの人が考えることがある。

「この土地、何に使えるだろうか?」

農業以外はどうなのか?太陽光はどうか、最近なら蓄電池はどうか。 用途を先に考えるのは、自然な発想に見える。

しかし現場を歩き、制度を調べる中で、どうしても避けて通れない現実に突き当たった。

それは、土地活用は「何に使うか」を考える前に、すでに“構造”によって大きく方向づけられているということだった。

その土地は農地かどうか?
白地なのか、青地なのか?
地域計画の中にあるのか、外にあるのか?
都市計画区域内なのか、区域外なのか?

これらは、あとから調整できる条件ではない。
土地ごとに、すでに重なり合い、「できること」「できないこと」の枠が既に決まっている。

ここで一度、「白地ならいける」「農地でも転用できる」という、よく聞く言葉を疑ってみたい。

農地転用に関わる制度は、農振法、地域計画、都市計画法など、一つではない
しかもそれぞれが独立して存在しながら、実務の現場では同時に効いてくる

その全体像を俯瞰してみると、次のような図で表せるかと。

図1:農地転用を縛る制度の全体構造(筆者作成)
農振法、地域計画、都市計画法といった複数の制度が重なり合い、土地ごとに「現実的に動かせる範囲」が決まっていく構造を示している。

この図を見ると、土地活用が「アイデア勝負」ではなく、構造を読む作業であることが分かる。

実は、ここ三豊市にある仁尾町は近年観光客が増えて賑わいを見せつつある町だが、かつて国のサンシャイン計画(1974年に始まった国家的長期プロジェクト)のもと、世界初となる1000kW級の太陽熱発電が実証された場所でもあるということはあまり知られていない。

仁尾町は日照条件、少雨、塩田跡地という立地から、「未来のエネルギー拠点」として全国から選ばれて大規模な太陽熱発電が行われ、その記念として1981年から仁尾太陽博というイベントも開催された。

しかし、実際の太陽熱発電量は期待を下回ったために実用化には至らず、土地の使われ方は仁尾サンシャインランドという遊園地を経て、太陽光発電、企業立地へと移っていった。

用途は変わり続けたが、土地の構造は変わらなかった。

塩田跡地という性質、立地、インフラが、時代ごとに「選ばれやすい用途」を静かに規定していたのだ。

だからこそ、土地活用を考えるときは、最初に「何をやりたいか」を語るのではなく、
その土地がどんな構造の中に置かれているのかを知る必要がある。

次の章では、その構造の入口となる「農振法区分(白地・青地)」から見ていく。

① 農振法区分──白地・青地という最初の分岐点

農地を活用しようと考えたとき、多くの人が最初に耳にするのが「白地か、青地か」という言葉だ。 不動産会社や行政の窓口で、必ず確認される項目でもある。

農地は、農業振興地域整備法(農振法)によって、大きく二つに区分されている。

ひとつは農用地区域(いわゆる青地)。ここは、将来にわたって農業を守ると決められたエリアであり、原則として農地転用は認められない。

もうひとつが農用地区域外(白地)。青地ほど厳しくはなく、「転用の可能性がある土地」として扱われる。

このため、「白地なら転用できる」「青地は無理だが、白地なら話が進む」といった理解が広く共有されているようだ。

しかし実際には、白地=自由な土地、というわけでもない。 白地はあくまで、「農振法の最も強い縛りを外れただけ」の状態にすぎない。農地としての扱いが完全に解除されたわけではなく、この先に、さらに別の制度も待ち構えている。

特に近年では、白地であっても、地域計画の対象に含まれているかどうかによって、転用の難易度は大きく変わってくる。 多くの土地活用の検討が、「白地だから大丈夫」という思い込みの段階で止まってしまうのは、この“白地の先にある構造”が見えにくいためだ。

まず理解すべきなのは、白地とは「可能性の入口」であって、決してゴールではないという点。これが次に見ていく「もう一つの壁」となる。

② 白地でも止まる理由──地域計画という、もう一つの壁

白地であれば、農振法上は「転用の可能性がある土地」として扱われる。しかし、実務の現場では、白地であるにもかかわらず話が進まないケースが少なくない。

その背景にあるのが、地域計画という、もう一つの制度。

地域計画とは、将来にわたって地域の農業をどう維持していくかを、市町村と地域の農業者が話し合い、土地ごとに方向性を定めた計画である。 ここで重要なのは、白地であっても、地域計画の対象に含まれている場合があるという点である。

白地の中には、「地域計画の対象外の土地」「地域計画の対象内として位置づけられている土地」が混在している。地域計画の対象内に入っている場合、農地転用の申請を行う前に、その土地を計画から外す、あるいは計画自体を見直す必要が生じる。

この「見直し」は、単なる書類手続きでは終わらない。 地域の合意形成、農業委員会との調整、将来の農地利用方針との整合などのプロセスが求められ、結果として時間がかかる、あるいは事実上進まないという状況が生まれる。

「制度上は可能」と言われながら、何か月、場合によっては年単位で動かないのは、この地域計画というレイヤーが大きく影響しているからだ。

白地だからといって、すぐに次の段階へ進めるわけではない。白地の先には、地域としてその土地をどう位置づけているかという、もう一段深い問いが待っている。

実務上、この段階で最も時間と調整が必要になる。そしてこれが、土地活用における「見えにくい壁」の正体だ。

③ 都市計画法──農地は「農業のルール」だけでは決まらない

農地転用というと、農振法や農業委員会の話だけで完結するように思われがちだ。しかし実際には、農地であっても、都市計画法の影響を強く受ける。

都市計画法では、土地はまず、

  • 都市計画区域内
  • 都市計画区域外

という大きな区分に分けられる。

さらに、都市計画区域内であれば、

  • 市街化区域
  • 市街化調整区域
  • 非線引き区域(市街化区域・市街化調整区域の区分がない区域)

といった形で、土地の使い方が細かく定められている。加えて、用途地域の指定の有無も影響する。

ここで重要なのは、農地であっても、この都市計画上の区分から逃れられないという点。

たとえば、

  • 農振法上は白地
  • 地域計画の対象外

という条件がそろっていたとしても、都市計画法上の制約によって、

  • 開発行為の許可が必要になる
  • インフラ整備の条件が厳しくなる
  • そもそも用途変更が認められない

といったケースが発生する。

つまり、「農地だから農業の制度だけ見ればいい」という考え方は、現場では通用しない。

農地転用の可否は、

  • 農振法
  • 地域計画
  • 都市計画法

という複数の法律が、最後に重なり合った地点で決まる。

農地転用1枚マップから現在地を知る

農振法と都市計画法、二つのフィルターを掛け合わせることで、農地転用の全体像が見えてくる。以下のマトリックスを見れば、自分の土地がどこに位置し、どのような手続きが必要になるかが分かる。

この都市計画法のレイヤーは、個別の土地だけを見ていても分かりにくく、自治体全体の将来像や、インフラ整備の方針と密接に結びついている。

そのため、「なぜこの土地は難しいのか」が、担当者の説明を聞くまで見えてこないことも多い。

農地転用が難しく感じられる理由の一つは、この見えにくい都市計画の視点が、最後に効いてくるというのがここまでの結論となる。

図5:農振法・地域計画・都市計画法が重なる最終判断イメージ(筆者作成)
個別の制度では可能に見えても、最終的には複数制度の重なりによって判断されることを示している。

図で見ると、「できない理由」がはっきりする

土地が動かないのは、想いが足りないからではない。知識や熱意の問題でもない。

ただ、順番を知らないと、土地は動かないという現実があるだけだ。

農振法、地域計画、都市計画法。これらが重なり合い、土地ごとに現実的に動かせる範囲が決まっていく。

白地か青地か。
地域計画に含まれているか。
都市計画区域内か外か。

これらは、あとから変えられる条件ではない。土地ごとに、すでに決まっている「前提」だ。

だからこそ、制度を理解することが必要になる。

制度を理解することは、諦めることではない。むしろ、現実的な可能性を見つけるための第一歩だ。

土地が動かないのは、想いが足りないからではない。知識や熱意の問題でもない。

「やりたいことがあるのに、なぜ進まないのか」

その答えは、制度の順番を知らないことにある。

ただ、順番を知らないと、土地は動かないという現実があるだけ。


おわりに

耕作放棄地を「資源」として捉えようとする前に、まず理解すべきは、その土地を縛る制度の構造だ。

図で整理してみると、なぜ「白地なら大丈夫」が通用しないのか、なぜ転用申請の前に時間がかかるのかが見えてくる。

本記事では、農振法、地域計画、都市計画法という三つの制度レイヤーを見てきた。これらが重なり合う構造を理解することで、「できない理由」ではなく、「どこを押さえれば可能性が開けるか」が見えてくる。

では、なぜ今、農地転用はここまで難しくなったのか。

次回は、これまで農地転用の多くを占めてきた太陽光発電(ソーラー)の流れを振り返りながら、地域と行政の目線がどう変わってきたのか、そして今、蓄電池がどう見られているのかを整理する。


次回予告

耕作放棄地は「想い」だけでは動かない【2】
──農地転用はなぜ難しくなったのか、ソーラーの時代とその後

この記事は「耕作放棄地の現実を見つめる」全3回連載の第1回です。

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