スマート農業の理想と現実。現役レモン農家が「本当に現場で使えるAI管理ツール」を開発する理由

🤖 農業×AI

今年に入り、放置みかん畑の再生から始まり、レモンの定植、みかんの剪定や防除、また、にんにくのとう摘みと収穫、コメの播種、玉ねぎ収穫など、ここ数カ月でさまざまな農業現場に入り込んでいた。

同時に、『農業×AI』の可能性を単なる机上の空論ではなく、本物の価値として形にするための活動も進めてきた。

その中で痛感したのが、スマート農業の理想と現実のギャップだった。

今回の記事では、私が現場で見つけたリアルな課題、それを解決するためにAI技術を駆使して本気で開発した『営農計画スプレッドシート(アグリダッシュボードVer.2.0)』の全貌、そして今後のスマート農業に対する新たな挑戦について書いていきたい。

理想と現実:営農計画シミュレーターVer.1の限界

私は、15年先までの収支を予測する「15年営農シミュレーター(Ver.1)」をAIと共に開発した。なんとなくザックリ、言い換えると行き当たりばったりの行動ではなく、データに基づいて地についた農業経営を普及させたい──そんな想いからのことだ。

しかし、これを自ら行っているみかんとレモンの栽培に当てはめてみると、問題点だらけだった。目的は『どんぶり勘定』を排除するためだったはずなのに、リアルな運用には程遠いものだった。

特に、以下の3点が深刻な課題だった。

  1. 品種による作業・経費の混在: 同じ果樹栽培でも、定植時期が異なったり、それによりやるべき作業が違ったり、必要な肥料のコストも異なる。これらを一括で計算するわけにはいかない。
  2. 初収穫までの「資金繰りブラックホール」: 果樹栽培などの新規就農において、あえて直視しなければいけないのは、苗木を植えてから本格的な収入が得られるまでの売上ゼロの期間。この期間にかかる費用が可視化できていないと、簡単に資金ショートを起こす危険性がある。
  3. 人件費の扱い: 作業者を雇用している場合、その人件費は経費としてかなりのウエイトを占める。年間を通して雇っている場合もあるだろうし、収穫の時期だけ雇う場合もある。そのボリュームも規模の拡大により変動もするし、ここを無視するわけにはいかない。

『これでは、本当の意味で新規就農者や経営感覚を持つ農家を救うことはできない』

そう危機感を持った私は、もう一度AIと壁打ちを重ね、ツールの設計を再度一から見直すことにした。

本気で作り直した「アグリダッシュボード Ver.2.0」の全貌

そうして誕生したのが、今回大幅アップデートを遂げた【アグリダッシュボード Ver.2.0(営農計画スプレッドシート)】だ。Ver.1をベースに、新規就農者が最も頭を悩ませるであろう「資金繰り」と「人件費」の計算精度を極限まで高めている。

① 品種ごとの作業・経費の個別管理

レモン、みかん、野菜など、作物ごとに異なる日々の作業手順や発生する経費(苗木代、肥料代、農薬代、農機・消耗品代など)を完全に独立してシミュレーションできるようにした。これにより、複数品目を組み合わせた多角経営の計画も可能になった。

② 収穫量に連動するリアルな人件費シミュレーション

パートさんや従業員を雇う規模の農家にとって、人件費は最大の固定費であり変動費である。Ver.2.0では、『この収穫量なら、何月に何人のパートが何時間必要か』を時給換算で自動計算する仕組みにした。これにより、繁忙期のキャッシュアウトを正確に予測でるようになった。

③ 「資金ショート危険地帯」の可視化

植え付けから収穫・販売に至るまでの「経費だけが出ていく期間」の累積赤字額を、あえてグラフで一発可視化出来るようにした。銀行融資をいつ、いくら引くべきかの経営判断材料に使うことも可能。

現役農家さんが本当に求めているもの

先日、ハウスで多肉植物を栽培し、実際にパートさんも雇用されている先輩農家さんとじっくり対話する機会があった。そこで得た知見は、今後の開発ロードマップを大きく変えるものとなった。

世の中のスマート農業は、こぞって「全自動ロボット」や「大規模ドローン活用」、或いは「ビニールハウスの温度自動制御システム」といった、ハイテクな自動化を謳っている。しかし、現場の農家さんが本当に恐れているのは、その『機械が勝手に動くリスク』だったことに、私は衝撃を受けた。

それは同時に、自分がこれまでやってきた『低コストでシンプルな農業テック』という道が、決して間違っていなかったことを確信させてくれた。

先輩農家さんの言葉は、その本質を突いていた。

先輩農家さん
先輩農家さん

「例えばビニールハウスの窓自動開閉で言えば、もしビニールが破れていたり、異物が挟まっていたりしても、機械はそれを検知できずに無理やり開閉しようとする。そうすれば数百万円〜一千万円単位の設備が大破してしまう。完全自動化は怖くて任せられない・・・」

さらに、多肉植物の生産現場では、過去にハウス内の急激な環境異常によって、一瞬にして1,000万円相当の作物を全滅させてしまったというあまりにも壮絶な経験談も伺った。

ハウス農家が本当に求めているのは、莫大なコストがかかる完全自動化ではない。『今、ハウス内が異常な環境になっていないか』『いつ窓を開閉するのがベストなのか』を24時間いつでもスマホで確認できたり、アラームで知らせてくれる【安心(命綱)】だった。

スマート農業の本当の意味

ここで改めて、スマート農業とは何かを考え直したい。

農林水産省などの定義によると、スマート農業(あるいはアグリテック)とは、「ロボット技術やICT(情報通信技術)、AI(人工知能)、IoT(モノのインターネット)などの先端技術を活用して、省力化・高品質生産を実現する新たな農業」のこととされている。

一般的にイメージされる代表例としては、以下のようなものが挙げられる。

  • 自動運転トラクター・田植え機: GPS(衛星測位システム)を活用し、無人で正確に圃場を耕起・代かきする技術。
  • ドローンによる農薬散布・センシング: 空からピンポイントで農薬を撒いたり、カメラ映像から作物の生育状況や病害虫の発生を AI で分析する技術。
  • ビニールハウスの自動環境制御システム: センサーが温度や湿度、日射量を検知し、窓の開閉や遮光カーテン、暖房機を自動で連動させて最適な栽培環境を維持する技術。

これらは素晴らしい技術であり、しかも労働力不足が懸念されている日本の農業において、とても重要な役割を担っている。

しかし、ここで一つ大きな問題がある。

一般的に語られるスマート農業の多くは、「初期投資に数百万円から数千万円という膨大なコストがかかる」という現実。これでは、国からの莫大な補助金を受けられる一部の大規模法人しか導入は難しく、大半の個人農家や新規就農者にとっては「別世界のハイテク」になってしまうのではないか。

私たちが目指すべきスマート農業は、そんな手の届かない高額システムとは一線を画する。

スマートフォンやスプレッドシート、身近な安価なセンサーとAIを掛け合わせるだけで、『たとえば数万円程度で始められる、地に足のついた低コストなスマート農業』も十分に実現可能なのだ。

今後の展開:2つのプロジェクト

この気づきを得て、アグリサークルでは現在、2つのプロジェクトを同時並行で進めている。

  1. 【攻めのデータ農業】: 今回完成した「15年営農シミュレーターVer.2.0(スプレッドシート版)」の普及。新規就農者や経営規模を拡大したい農家さんへ、精度の高い営農計画書の作成を支援する。
  2. 【守りのスマート農業】: 既存のハウスに数万円で後付けでき、異常温度をLINEで緊急アラーム通知する「人間主導型・低コストハウス監視通知システム」の構想・開発

私たちは、それぞれの地域、個人、法人が抱える異なる課題に「AI×現場主義」で寄り添い、そして解決していきたいと考えている。

現場の勘と、AIのデータ。 この2つを融合させて、新しい農業のカタチを一緒に作っていく。

現在、この「15年営農シミュレーター Ver.2.0」の無料モニターを人数限定で募集しています。

営農シミュレーターの無料モニター募集

現在、「15年営農シミュレーター Ver.2.0」の無料モニターを人数限定で募集している。

  • 「これから新規就農するにあたり、精度の高い営農計画書を作りたい」
  • 「果樹栽培や野菜栽培の将来の資金繰り、人件費を長期目線で可視化してみたい」

そんな熱い想いを持った農家さんは、ぜひ力を貸してほしい。具体的な応募要項や、開発に込めた猫CTO(愛猫たち)との裏話などは、すべて【note】にて公開している。

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